ノックセンサー交換の巻






すみません最初に謝っておきます。今回はややこしい上に妙に専門的です☆
2級整備士ならこれぐらいは頭に入ってないといけない。という内容です(ただいま2級整備士の講習受講中の身です)
蛇足ばかりでメインテーマはどこへいったのやらわかりましぇんw





前回のサーキット走行中に突如点いたエンジンチェックランプ。
エンジンをかけてすぐには点かず、3000付近くらいまで回転数を上げると点く。点くとエンジン切るまで消えない。
エンジンを切って、もう一度掛けなおしてみると消えているチェックランプ。
そして3000回転付近まで空ぶかしするとまた点く。点くと消えないw

なんじゃこりゃー!


現象としてはエンジンがやたらと吹けない。
ブースト圧の立ち上がりがまるで婆さんが腰掛ける時のように遅い
「あ〜〜・・よっこらせぇ!」という具合でエンジンが吹け上がるw
いや、吹けあがらないwww


パワーが出ないし吹けないし乗っててもおもしろいワケがない!
とりあえずこのつまらん状況からすぐに脱却せねば!!!

その為にはまず、原因が何かをつきとめる必要がある!

えみちゃんには素晴らしい事にダイアグノーシスといってチェックランプが点いた際、エンジンのどの部分に異常があるかを診断する機能があるのだ!!(どの車種にもあるんですけどね。。。)

しかも一度異常を検出すると診断モードで確認しない限りずっとログとして残り続けるので、すぐチェックする必要はないです。3日後でも1週間後でも1年後でも診断結果を確認できます。



エンジンルームに「DIAGNOSIS」と書いてある小さい箱があります。SW20だと運転席側の方からエンジンルームをのぞいてインマニより手前ぐらいにあったような気がしますが!

その箱のフタを開けて、フタの裏に書いてある端子名を見ながら、TeとE1を繋ぎます。針金とか書類をまとめる用のクリップとか電気を通す物ならなんでもいいので繋ぎます。
修理書には短絡とかって難しい言葉で書いてますが、ようするにショート回路を作る事でダイアグノーシスの診断モードに移行する仕組みになっているだけです。

診断モードの結果はキーをONにして(エンジンはかけない)チェックランプの点滅の回数と周期を見て読み取ります。
チェックランプが点滅しない場合は短絡のしかたが下手クソでできてない場合がほとんどです。


チェックランプの読み取り結果はこう。

スロットルポジションセンサー系統異常信号
ノックセンサー系統異常信号

の2点
EFIのヒューズを抜いてダイアグの診断結果を消去、エンジンを3000回転付近まで空ぶかししてチェックランプが点くことを確認、もう一度ダイアグチェック。


そうするとやっぱり出てきたノックセンサー信号系統異常
ダイアグコード番号は52
この時、診断モードのチェックランプは5回点滅の後に一呼吸おいて2回点滅する。これでコードが52だと判断できます。


ダイアグでいくとどうやらノックセンサーが壊れてたみたいですね。
稀に断線とかあるみたいですが、断線がないという大前提であればノックセンサーが壊れている確率は90%ぐらい。



これが壊れたノックセンサー。
27mmの6角レンチ1本で交換可能です。潜っても作業できるんじゃないかなー。しんどいかなーw
付いている場所はエンジンのシリンダブロックで、ちょうどインマニの下辺りです。
ドライブシャフトが邪魔ですが、大した問題ではありません。

センサー自体はシリンダブロックにネジ穴が切ってあって、そこにセンサー本体をねじこんでいくだけです。
ただ穴がほじってあるだけのシリンダブロックにこれをつけるだけで一体なにがわかるっていうんだ!
ただのでっかいボルトにカプラーはめるプラスチックがついただけのこの塊に何ができるっていうんでしょうかwww


しかもこれ、バックオーダー品(受注しないと生産されない)で、新車当時でも1万円ぐらいするのに、
「こんな16,、7年前の古い車のセンサーいまさら誰がほしがるんだよ!」とメーカーも怒っているので現在(2013年6月時点)では15500円(定価)です。
古い車の部品は供給するにも手間がかかる(作る必要が基本的にない)ので、部品の値段は昔大量生産していた頃に比べて割高になるのは当然の事です。

ちなみにうちの工場長(笑)は整備人生30年近く経つがノックセンサーなんか一度も変えた事ない!普通は壊れるトコじゃない!って言ってましたw
ドリフトすると点くんですねーwいやーまいったまいったw


で、結局のところノックセンサーって何してるの?って話なんですけど、
エンジンがノッキングしたかどうかを判定する為に一生懸命エンジンにくっついて異常な振動がでないかただひたすらに見張っているんですよ。
まるでホシの部屋を張りこみしてる刑事(デカ)のように!

あんぱんも牛乳も与えられません。しかもセンサーへ伸びている線はたったの1本。プラスとマイナスの2つがないと電気が流れないという事は特にバッテリーから電力が供給されるワケでもない。己の身体一つでノッキングというホシに動きがあった時、即座にECUに伝える重要な役目を負っているのです。







で、ノッキングってなんやねんって話になるんですが・・・。








ノッキングとはエンジンのシリンダー内で起きる異常燃焼(普通じゃない燃焼)の一つです。
エンジンはピストンの往復運動を繰り返し行い、ピストンが最も上にあがった時(圧縮上死点)、圧縮された混合気に点火プラグが火花を飛ばし、爆発させ、動力を得ます。
というのが一般的な知識ですが、実はプラグの点火はピストンが上死点に上がりきるより前に点火されています。
その理由は火炎が燃え広がるスピードと、爆発が最大のパワーを発揮する時期に上手にピストンを押し下げる事ができるようにする為です。


一般的には毎秒数10メートルの速度で火炎は放射状に燃え広がります。
上死点に達してから点火したのではピストンは既に下に下がりはじめているので爆発の圧力は肩すかしをくらってしまい、勢い良くピストンを押し下げる事ができません。

トヨタの1級整備士の方はブランコを手で押してあげる場合に例えていました。
ブランコが前に進みはじめてから押してもしっかり押してあげることができないのはわかりますよね??
それと同じ道理です。




図を見ていただければわかるように伝播はプラグを中心に外側へ外側へと燃え広がっていきます。
狭い空間内での爆発なのですが、圧力は中心から外側へ徐々に広がっていきますので、いっぺんに全ての混合気がドーン!と燃えるわけではなく、
人間の目には一瞬に見えても爆発は「徐々」に中心から外側へ広がっていくものなのです。(前述した通り毎秒数10メートル程度の速度で)

そうすると完全に混合気が燃焼しきるまでの途中の時点で、燃えている部分と、まだ爆発していない混合気があります。
爆発していない部分を未燃焼エリア(最終燃焼部分)と呼ぶとします。
未燃焼エリアの混合気は、未燃焼エリア以外の爆発により圧力がかかり、高温高圧になり、炎が届いてないにも関わらず勝手に自爆します(自己着火現象)。
未燃焼エリアの自己着火で起きる爆発はすさまじく、正常なプラグからの燃焼速度が毎秒数10メートルに対し、未燃焼エリアの爆発力は毎秒数100メートルとも言われているようです。
そのとてつもない爆発力は強烈な衝撃波を発生させます。ソニックブーム!!ソニックブーム!!

その衝撃波がピストンやシリンダー壁を激しく叩く音がいわゆるノッキング音というやつです。
この現象はすべてピストンが上死点に到達する前に起きている現象であり、上に上がろうとするピストンに衝撃波が勢い良く叩き付けられるため、エンジンに急激な負担がかかるのです。


ノッキングを起こし続けながらエンジンが回るとエンジンがぶっこわれます!
そう!ノックセンサーはエンジンがぶっ壊れないように見張っているめちゃめちゃエラい奴なんです!


ノックセンサーがノッキングの衝撃波をシリンダブロックを通して振動で感知し、振動の度合いで電圧が変化する素子を用いて、その電圧量をECUに伝えます。
ECUはノックセンサーから受けた電圧に応じてノッキングを抑性する為の制御を行います。具体的には点火時期の調整。

ノッキングは点火時期が早すぎる場合に起きるので、ノッキングを感知したECUは点火するタイミングを遅らせます。これを遅角といいます。
しかし、ノッキングは防止できるものの、遅角状態では爆発が最大の力を発揮するまでタイミングと、ピストンが上死点から下降しはじめるまでのタイミングが合わなくなり、前述の肩すかし状態になってしまう。つまりパワーが出なくなります。


このノックセンサーが壊れた場合、ノッキングによるエンジン破損を防ぐ為に、パワーよりエンジン保護を優先させる為にECUが強制的に点火時期を最遅角状態に固定します。
つまり、えみちゃんのエンジンはサーキットを走っている途中にチェックランプがついた時点で、全然パワーが出ない状態に切り替わっていたという事です。
この最遅角状態に固定するECU制御は一般的にフェイルセーフ機能と呼ばれています。










蛇足ですが、 エンジンのパワーを最も引き出す点火時期というのは、実は少しノッキングさせてやるぐらいがベストなのだそうです。
しかし、メーカーが新車の出荷時にノッキングによるエンジンの破損防止ならびに、ノッキング音でドライバーが余計な心配をしないように少し甘めにセッティングしています。
つまり、パワーが最も引き出される点火時期よりすこーし遅角させているという事。

そこでモータースポーツの世界では、エンジンの点火時期を意図的に進角させ、純正よりも早いタイミングで点火し、諸刃の剣と知りながら最大のパワーを得ています。
当然ノッキングしやすくなります。しかし、点火時期だけがノッキングを発生させる要素ではない為、他の部分で補っています。

どういう部分で補えるかですが、例えばわかりやすいのが高出力車に入れるハイオク燃料。オクタン価というノッキングを抑制する度合いが高い燃料であることを示しています。
ハイ(HIGH)オクタンでハイオクですw
日本ではハイオクはオクタン価96以上です。レギュラーはオクタン価89以上と定められています。

オクタンというのは炭素を8個もつ飽和炭化水素で、化学式はC8H18であります。
ガソリンはこのオクタンの構造異性体といって分子の結合の配列を変化させた物を2つを混ぜ合わせて作られます。

アンチノック性能が高いオクタン価100の構造異性体であるイソオクタン
アンチノック性能が低いオクタン価0の構造異性体であるヘプタン

この二つの成分比率こそがいわゆるオクタン価なのです。
ハイオクを作るときはイソオクタンを96個、ヘプタンを4個でオクタン価は96っていうふうにw

F1のエンジンなんかはノッキング要素満載なので、トルエン(オクタン価120)とイソオクタンを混ぜたスペシャルな燃料を使っているとかいないとか!


ちなみに・・・
ハイオク指定車にも関わらずレギュラーを入れても走ってしまう最近のクルマ。
なんで走れるのかというと、レギュラーを入れられた時用にECUが燃焼を制御するからです。

しかしハイオクに比べて耐ノック性能が低いレギュラーでは、重点的にノッキングを防止する制御を意図的に行うので、出力と燃費がガクンと下がります。
というわけで、ハイオク車にはハイオクを入れましょう。






その他ノッキングを防止する策としては・・・

・圧縮比を上げすぎない(メーカーがキチンとやっています)
・シリンダーの温度をなるべく低く(燃焼室付近を冷却水で冷やしてあります。燃焼室が熱いと未燃焼エリアが自己着火しやすくなります)
・吸入空気の温度を下げる(これもシリンダーの温度と同じ理屈。ただし、下げすぎは点火ミスを誘発します)
・ピストンと燃焼室の形状を工夫して、混合気に過流(うず)を発生させ、火炎の伝播がスムーズになるようにする(スキッシュエリアなど。最近のエンジンは工夫の仕方がハンパないです。)

等々色々あります

さまざまな要素が複雑に絡み合って起きるノッキングとの戦い。メーカーのエンジニア達の永遠のテーマといえるでしょう。
そんな中なりもの入りでシリンダブロックにへばりついてノッキングを監視する孤高のノックセンサー!
まさに縁の下の力持ちとは彼の事です。えみちゃんの場合だとインマニ下の力持ち!?ってトコでしょうか(笑)


ノックセンサーがすごーく重要な役割をしているのがおわかりいただければ、陽の目を見ない恥ずかしがり屋の頑張り屋さんのノックセンサーも浮かばれる事でしょう。
しかもめったに壊れないときたもんだからすごい!すごいぞノックセンサー!頑張れボクらのノックセンサー!
なまじよく壊れるエアフロセンサーとか02センサーなんか目じゃねえぜ!



この記事を読んでくれた方がた・・・。たまにでいいのでノックセンサーさんの事思い出してあげてください。